動いたら感動! はじめてのマイコン実習レポート ~マイコン開発技術者の第一歩はP板.comの基板から~
“ものづくりコラム”第1回は、日本の製造業の中核を担う愛知県が設立した「愛知県立愛知総合工科高校・専攻科」が舞台です。技術者の卵たちが、P板.comの基板を活用して「PICマイコン実習」に挑む様子を同校の丸山日出勝先生がレポートします。
P板.comの基板を使っているユーザー様や、ものづくりにたずさわっている方々に寄稿していただく“ものづくりコラム”を始めました!
■“愛知県立愛知総合工科高等学校” に専攻科
平成28年4月にできたばかりの愛知県立愛知総合工科高校は、"ものづくり立県愛知“を担う工業教育の拠点校です。併設して、愛知県で初めての電気・機械系の専攻科(2年生過程)が誕生し、現在各学年2学科計4コース34名が学んでいます。
その一つ情報システムコースでは、現在、将来の“マイコン開発技術者”(組込みシステム技術者)の卵9名が、夢いっぱいに「組込みハードウエア」、「組込みソフトウエア」など多くの科目を勉強しています。今回は、情報システムコースの生徒が実施した、PICマイコン実習の様子をレポートします。
写真1. 愛知総合工科高校校舎(新設校舎は大きくてきれい(詳しくは専攻科web))
■実習で使ったPICマイコンは18Fシリーズ
生徒たちは、すでに前期授業で「デジタル回路」と「C言語」の基礎の授業を終えています。PICマイコン実習は、4コマ8時間のカリキュラム。実習目標は次の3項目です。
- ハードウエアの製作
- 開発環境の構築
- ソフトウエアによる動作確認
初めてのマイコン実習は、取り組みやすいPICマイコンにしました。選択したPICは8ビットの18Fシリーズです。18Fシリーズ゙は同じ8ビットの16Fシリーズ゙と比較するとUSB2.0も選択できるなど周辺回路が充実しています。さらに低消費電力化により40MHzで12mA、スリープ時はわずか0.1μAと少なく、長時間の電池駆動回路にも使えます。さらに電圧の2重監視(BOR,LVD)とクロック監視機能(FSCM)で万一の場合のフェールセーフ対応も可能となっています。産業用として充分なパフォーマンスを持つマイコンです。
今回使用した18Fシリーズ゙のPIC18F2320は、ADコンバータ、PWM、シリアル通信(UART)、EEPROMなどが付き組込みマイコンの基本を学ぶには最適なチップです。回路と基板は、後閑哲也氏の「C言語によるPICプログラミング入門」に記載のものを使用しました。見本の基板は、P板.com に製造を依頼しました。その仕上がりが素晴らしかったので、安心して実習に使うことができました。
写真2. 実習で使用した基板
さて、実習の内容を細かく説明していきます。
■ PICマイコン実習開始!
1.まずは回路を知る
初めに、PIC18F2320の概要と回路全体を簡単に説明します。
8ビットでは最も高性能
写真3. PIC18F2320スペック
基板は100mm×80mmというコンパクトな面積の中に数々の周辺回路を搭載しています(図1参照)。
図1. 回路構成図
- 温度センサーの信号をOPアンプで増幅してA/Dに入力しています。
- CN2は電圧入力などのアナログ信号を入力できます。
- 発光ダイオードが4つあります。
- CN3からMOSFET出力が2つ出ています。モータやサーボをPWM制御できます。
- 7セグメントLEDが2桁あります。ダイナミック点灯の学習に使えます。
- J2は、10bitの外部入出力です。後でLCD表示器を接続できます。
- CN4のD-SUBコネクターでパソコンとのRS232C通信ができます。
- 64kビットEEPROM2個がI2C通信で接続されています。内蔵の256byteのEEPROMとは別ですから注意のこと。
- 押しボタンスイッチが2個ついています。
写真4. 講義の様子
回路説明は30分ほどで終わりました。いよいよ製作実習に移ります。
実は全員がマイコンを手作りするのは初めて。無事動くマイコンが作れるかどうか心配で、少し緊張した様子です。
2.部品を点検
最初は部品の点検です。部品表の部品を探してマーカーでチェックを入れます。次にその部品をシルクに重ねて取り付け位置を確認します。部品によっては実際に基板に差し込んで穴に入るかを確認します(写真5)。
注意すべきは、抵抗を立て付けにする場合です。抵抗を立てると抵抗の片側が基板にあたり、反対側のリードは長く露出して折り曲がります。この場合はインピーダンスの高い方を短くして差し込みます。特にアナログ回路ではこの方法が良いです。
部品表にマーカーがすべて引かれたら終了です。この作業を20分ほどかけてじっくり行います。
写真5. 部品点検の様子
3.部品を実装
いよいよ、はんだづけです。はんだごての電気容量はこの基板では30Wが適切です。こて先温度は360°C程度。こて先端はロケットの先端のような円錐型が使いやすくおすすめです。
両面スルーホール基板のはんだづけのポイントは、はんだづけ直前に基板パターンを加熱する時間を長めにすることです。加熱が不足すると、写真6のようなNG品になります。
写真6. NG品
<NG点>
●はんだが急速に固まって盛り上がった状態が見える
●はんだ量が少なくて穴があいたものがある
●何度もはんだづけを重ねたために蒸発しないフラックスで汚れた部分がある
これでは信頼性はありませんよね。では、OK品はどのようになるのでしょう?
写真7. OK品
<OK点>
●はんだがスルーホールにしみ込んで富士山のような形になる
●穴あきや、急な盛り上がりがない
本来はランドごとに加熱時間を変えますが、それにはある程度の経験が要ります。思いきって長すぎるくらいの加熱時間を与えてみましょう。すると、はんだは流れるように基板になじんでいくはずです。はんだがスルーホールにしみこみ、形が富士山のようになれば理想的です。OK品の写真7は、形も量も適切です。
部品の向きを間違えないように
実装の注意点は、部品の向きを間違えないことです。間違えやすい部品は、コネクター、IC,発光ダイオードです。実装ミスを防ぐために、方向や基準点などが書かれているシルクをよく見て部品を差し込むようにします。
万一、違えた場合は交換に大変手間がかかり、場合よっては部品を破損してしまいます。挿し違えた場合は、通常は電動のはんだ吸い取り器ではんだを吸い取ります。電動がない場合は先端の細いペンシル型の手動はんだ吸い取り器で作業します。太くて吸引力の強い吸い取り器では基板を痛める場合がありますので注意が必要です。
なんとか2時間ほどで実装が終わりました。しかし、仕上がりを見ると一人ずつに微妙な違いが出ます。経験の差です。はんだづけは単純なようで奥が深い技能です。動くかどうかは不明ですが、どうにかハードウエアは完成しました。次に開発環境を構築します。
4.マイコン開発環境を整えます
・ 開発環境 :マイクロチップ社 MPLAB X IDE Vr3.36
・ 開発言語 :C言語
・ コンパイラ:マイクロチップ社 XC-8 (8ビット専用)
・ デバッガー:ICD-3
※ コンバイラ=C言語のプログラムを動かすソフト
MPLAB X IDEとCコンパイラXC-8はマイクロチップ社のホームページからダウンロードできます(写真8左)。今後、PICの開発環境はこの組み合わせが定番になると思います。生徒は初めての英語サイトに苦労しながらなんとか2つのソフトのダウンロードを行い、続けてインストールも成功しました。書き込みデバッガーはICD-3(写真8右)を使います。PICKIT3よりも価格が高いのでアマチュアにはあまり使われていませんが、書き込みエラーも少なく、さらに何回も繰り返すコネクターの脱着の信頼性と機能を考えるとコストパフォーマンスはあるようです。
次に、MPLAB X上でのPIC18F2320プロジェクトの構築です。これは一度だけインストール作業を通しで見せてから各自で行いました。なんとか全員がPC上に構築できました。
写真8. MPLAB X + XC-8 環境(左)、書き込みデバッガーICD-3(右)
5.プログラミングと動作確認を行います
Cコンパイラ”XC-8”の特徴は、今までPIC別にインクルードしていたヘッダファイルを で統一していることです。また、MPLABとの相性も良く便利な点が多く、現在700種にもなるPICをストレスなく選ぶことができそうです。
動作確認は上記のプログラムでLEDの点滅動作をおこなうものです。簡単な内容ですが、今回の目的はハードウエアの製作と開発環境の整備が目的のため、できるだけソフトウエアのトラブルが出ないものにしました。プログラムの書き込みが成功して、LEDが連続点滅すると誰もが歓声を上げて喜んでいます。表情が一変して明るくなりました。
写真9. 完成品
2名の生徒に部品実装のミスがありました。一人は、LEDの向きをすべて間違えていました。もう一人は、はんだの量が多すぎたことによる隣のパターンとの短絡でした。やり直して30分ほど遅れましたが、最終的に全員が完成しました。これ以降3回の実習はこのマイコンボードを使用して以下の内容で行います。
・ PICのアーキテクチャ
・ PICアセンブラ
・ 周辺デバイスの制御(7セグメントLED、AD、PWM、LCD)
・ 割り込み処理
さらに、応用的な学習として
・ 小規模データロガーの設計
・ CAD設計
・ PCB設計
・ プログラム開発
と順番に進む予定です。
■大変だったけれど達成感!
抜粋ではありますが、生徒の感想を集めてみました。すでに技術者の卵としての頼もしさが感じられます。
・ はんだ付けは細かい作業が多かったが達成感があった。
・ スルーホールのはんだ付けは一度失敗すると修正するのが難しかったが、動作するものが作れてうれしかった。完成した時の達成感を味わえた。
・ 以前16F84を使用したことがあるが、これからは18Fにしたい。
・ XC8コンパイラはエラーチェックが細かくて安心感がある。
・ 抵抗をつける向きが勉強になった。電気は奥が深いなと思いました。
写真10. 生徒と完成品
■ここからが開発者への道の始まり
全員が動作して得意げでした。本当にこの製作実習は良いものになりました。「千里の道も一歩から」ここからが開発者技術者への歩みの始まりです。これからもマイコン学習を楽しんでもらいたいですね。
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専攻科 丸山日出勝
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