基板設計の上流と下流を素早くつなぐCAD
論理設計、回路設計と、実際の基板製造を結び付ける工程を支援することが「CAD」の役割です。基板上でパッケージを配置し、あらかじめ決められたルールに従って配線を正しく接続する機能が基本です。CADを導入することで、設計の作業性が高まり、設計データの再利用が楽になります。製造用のデータの精度が高まることも利点です。
CADと設計
CAD(Computer Aided Design)やシミュレータは、エレクトロニクスの分野だけでなく、あらゆる分野で、広く使われています。
プリント配線基板やSiP(System in Package)基板の設計の分野でも、CADは絶対に欠かせないツールです。近年、回路の高速化、ICの高集積化による消費電力の増大、同時スイッチングノイズ(SSN)の増大とピン数の増加など、ICパッケージ設計の難易度と重要性が急激に増大してきました。このため、ICパッケージ設計に対しても、これまでの機構系CADに代わって電気系のレイアウトCADが使われるようになっています。
CADは設計をするツールです。製造データを作成、出力するCAM(Computer Aided Manufacturing)機能も備えています。このため、「CAD/CAMシステム」と呼ばれることもあります。しかし、一般には設計を主にしたシステムを「CADシステム」と呼びます。
これに対して、製造用データの編集や、製造のためのチェック機能などを目的としたシステムを「CAMシステム」と呼んでいます。
プリント配線板の設計は、論理設計、電子回路設計と基板製造の間に位置し、論理的な設計から、実際に物を作るためのデータを作成する過程です。
このため、上流は電子回路設計や論理設計のEDAツールとデータをやり取りし、下流は、基板製造のための装置とのデータのやり取りが必要です(図1)。
この、下流とやり取りするデータが「CAMデータ」です。
一般に、プリント配線板の設計と製造はおのおの独立して行われます。CADは設計の段階で使われるのに対して、製造の段階では、CADで作成された製造データ(CAMデータ)を一般的にはそのままでは使うことができず、おのおのの製造設備に合わせて、実際の製造手順に合わせた編集をする必要があります。このように、CAMシステムでは簡単な編集機能以外には設計機能はなく、製造データの編集、確認機能を専用に行うシステムとなっています。 図1.設計とコンピュータシステム
配線情報・部品情報を利用する
CADで設計をする時、どのような電子部品を使って、おのおのの信号配線は「どの部品のどのピンから、どの部品のどのピンへ」配線するかという情報が必要です。このような配線情報、部品情報は、論理設計、電子回路設計から得られます。このような論理設計や電子回路の設計は、回路図や論理設計記述言語などで作成されます。一般に、このデータは回路図入力システムや論理シミュレータなどで作り上げます。
CADは回路図入力システムや、論理シミュレータからの配線情報、使用部品情報を入力して、基板の設計を行います。そして設計結果をCAMデータとして出力し、CAMシステムに渡します。CADと並んで、シミュレータも設計、開発ツールとして、欠かせないものです。
プリント配線板の設計では、電子回路、論理回路の論理シミュレータや回路シミュレータが多く使われており、CAMデータを使った製造解析システムもあります。
基板設計では、伝送線路シミュレータの利用が一般的になってきました。伝送線路解析と基板設計CADを有機的に有効に運用するためのフロアプランナーなどの単体製品もありましたが、現在、フロアプランナー機能は伝送線路シミュレータの機能に含まれています。
CADの必要性は3つに分かれる
なんらかのプリント配線板設計CADがほぼ全ての設計で使われている事実は、設計においてCADを使用する必然性があることを証明しています。
CADには、全ての機能がそろった高機能なものから、機能を絞った低価格なものまで、多くの種類があります。最近では機能が不足していたり、不十分な低価格のCADより、むしろ多少価格が高くても、十分な機能がそろっているCADシステムが好んで使われるようになってきました。これはPCの高性能化、低価格化、またCADソフト自体の低価格化により、CADが手軽に使えるようになったこともあります。CADの持つ機能が、特に高密度実装基板や高速回路基板では欠かせないものとなってきたからにほかなりません。
ここで、CADの持つ機能とその機能の必要性を整理します。
CADを使う最大の目的は、“設計した基板が意図した通りに間違いなく動作する”ような設計をすることにあります。
CADでは入力された接続情報に基づき、間違った配線や配線の不足が発生しないようにチェックをしています。また、配線の線幅や配線の間隔、部品の高さや重なりなど多くのチェックを行い、間違った設計をしないようになっています。これらのチェック機能を「デザイン・ルール・チェック(DRC)」と呼びます。
高速信号配線に対しては、配線長さの指定や、複数の信号配線の長さをそろえる(等長)配線など、設計の制約チェックもします。
このような設計規則や制約条件は正しい設計をするための基本です。間違いなく設定、確認をする必要があります。CADの機能としては、ユーザーの要求する条件のチェック項目がそろっていることと併せて、設定と確認が簡単に間違いなくできるような機能が要求されます。
図2.設計とコンピュータシステム
効率のよい設計が可能
CADを使えば、基板の設計が簡単に、素早くできることも大きなメリットです。同時に、CADは誰でもが簡単なトレーニングさえ行えば使いこなせ、ツールとして利用できる必要があります。このため、自動配線をはじめとする自動設計機能が用意されています。
設計者の設計感覚にマッチした多くの半自動やマニュアル設計機能も必要です。特に半自動やマニュアル設計機能では、同じことをするにも、操作性が良い場合と悪い場合では設計の効率や設計者の受けるストレスに大きな差が出ます。一見便利な機能でも、操作性が悪く使えない機能も多くあります。機能があるかないかだけでなく、操作性にも注意が必要です。
基板の設計では、全てを新しく設計することは少なく、一部の設計変更や、前回設計した基板の一部に過去の設計データを流用するような設計が多く行われます。このため、設計変更や、以前の設計の流用などが効率よく、簡単に行えると、設計の効率が大きく上がります。
CADを使う目的は実際に基板を作るための設計をすることですから、正確なCAMデータが出力される必要があります。CADのCAMデータがそのまま製造に使われることは少なく、CAM編集機の入力として使われます。製造データだけでなく、部品の調達、管理データ、サービスマニュアルなどのためのドキュメンテーション出力、レポート出力なども大事な機能です。
以上を整理すると、CADの使用により、以下のようなことが実現できます。
- 設計時間の短縮
- 設計の標準化(設計の個人差をなくす)
- エラーの防止
- 精度の高いCAM出力
- 設計の再利用
< 前の記事 | 記事一覧 | 次の記事 > |
---|
本記事は、「Allegroで学ぶ実践プリント配線板設計」(発行元:株式会社ジー・ビー)から一部転載しています。