アットマークエレ:プリント基板制作に関する技術アイデアまとめ

ビア(その1)――単なる穴だと、あなどるな! (1/2)

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基板の層と層を接続するビア(Via)。単なる銅をメッキ/充てんした穴だと侮っていると、思わぬ落とし穴にはまります。ビアにはいろいろな種類があり、それぞれ電気的特性や性質が異なります。ビアを正しく理解し、使いこなしましょう。

回路図に現れないビア

 配線は部品ではないが、回路図に描かれ、部品の接続関係を示している。それに対して、ビアは配線の役割を果たすにもかかわらず、回路図に描かれない。

 回路図では、複雑なバス配線は1本にまとめて記述することができ、配線が交差しても良いし、端子を使って、信号名で、同一回路図や異なる回路図への接続を示すこともできる(図1)。

図1_回路図では多くの配線をまとめて1本で表示し、線が交差しても構わない 図1. 回路図では多くの配線をまとめて1本で表示し、線が交差しても構わない

 しかし、基板設計では、全ての配線が他の配線と接続(交差)しないで、基板上に配線する必要がある。

 このため、基板配線は配線の交差を避けるため、基板を多層化し、交差する配線を異る層に分けて全ての配線を実現している。複数の層を使って1つの配線を実現するとき、異なる層間の配線を接続するためにビアが使われる。

 回路設計の時は、どの配線に幾つのビアが使われるかは分からない。

 ビアは配線に比べ、電気的特性が劣り、歩留まりや信頼性も低い。ビアの特性を理解して、レイアウト設計時に、配線に流す信号に応じて、ビアの使用有無やビアの使い方、ビアの数などを決めなければならない。

ビアの特性

 ビアを使用する上で、まず注意することは、ビアの許容電流だ。

 銅は抵抗のない理想的な導体ではなく、わずかだが抵抗を持っている。このため、細い配線に大電流を流すと、配線の持つ抵抗による電圧降下と発熱が生じる。

 配線の持つ抵抗値は配線の断面積に反比例し、長さに比例する。

 配線の長さや、許容する配線による電圧降下量にも依存するが、一般的な大きさの基板上の配線では配線幅1mmで流せる電流は1A程度といわれている。これは、銅箔厚は1oz(*)(35μm)の場合の目安で、銅箔が厚くなればさらに多くの電流が流せる。
(*)1oz(オンス/正確にはトロイオンス):基板の銅箔の厚みを示す単位として用いられ、1oz=35μmとなる。重さ1トロイオンス(31.1035g)の銅を1平方フィート(30.48cm2)に引き延ばした時の厚さが35μmとなるため、銅厚35μmを1oz(1オンス)と表現する。

 ビアは一般にメッキ(導体)厚が10μm~20μmであり、穴径0.3mmのビアの電流容量は300mA程度とされている。このため、1Aの電流を流すためには0.3mmのビアを3個以上並列に接続するか、ビア径を1mm程度に大きくする必要がある(図2)。

図2_1Aの電流を流すためには、配線は1mmの幅、ビアは0.35mm径なら3個、0.5mm径なら2個が必要になる 図2. 1Aの電流を流すためには、配線は1mmの幅、ビアは0.35mm径なら3個、0.5mm径なら2個が必要になる

 高速信号では、ビアの高周波特性についても注意する必要がある。ビアは高い周波数の信号に対しては大きな悪影響を及ぼす(図3)。

図3_長さ10cmの配線の損失。同じ長さでもビアの数で損失が異なる 図3. 長さ10cmの配線の損失。同じ長さでもビアの数で損失が異なる

 基板配線は、太さが変わらなければ、一定の特性インピーダンスで安定した特性を保っている。配線の途中にビアがあると、ビアはランドを持つため配線とは線幅が異なる。ビアの周辺のプレーンにはクリアランスがあり、配線と特性も異なる。ビアは小さな容量(C)やインダクタンス(L)成分として扱われる(図4)。

図4_ビアは小さなインダクタンス(L)と容量(C)成分を持つ 図4. ビアは小さなインダクタンス(L)と容量(C)成分を持つ

 これらのLやCの影響により、信号はビアで小さな反射ノイズを発生し、信号の波形を歪める。

 ビアの特性ではないが、信号が異なる層に移ることにより信号と対になって、ループを形成するリターン電流の経路が乱れ、信号を乱す原因となる。信号の流れに沿ってリターン電流の経路を確保するためには、基板設計で、リターンビアと呼ばれるビアを使う(図5)。

図5_リターンビア 図5. リターンビア

 高速信号に対するビアの影響や、最適なビアの構造を設計するためには3次元のフィールドソルバーと呼ばれる解析ソフトを使う必要がある(図6)。

図6_3次元フィールドソルバー_cSimbeor 図6. 3次元フィールドソルバー / cSimbeor

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